■サガミシティ014 工業エリア/20:00■

【はさな】
「ったくもー!
 なんでアタシがアンタのバイトのためにこんなトコ来なきゃいけないワケェ?」
【暁】
「スミマセン、教官!
 まさか、CEM関係のバイトする時は教官の監視が必要だったなんて……」
「暁ィ……
 聖母のよーな東教官が飲み会キャンセルしてまで付いてきてやってんだから

 アンタのバイト代からアタシにも取り分寄越しなさいよ!」
「わ、分かってますって!」
「それにしても、ここの工業エリア周辺って昔っから全然変わんないわねー。
 大戦前からある古い工場ばっかで時代に取り残されてるってゆーか……
 川向こうにあるCE最先端技術企業が集まってるエリアと同じ時代だとは思えないわ」
「えーと、Jが言ってた石月製作所は確かこの辺り……
 あ、あった!」
>看板に『石月製作所』と書かれた傾きかけの工場が目の前にある
「へッ?
 アンタのバイト先って、もしかしてこのボロい工場?!」
字がかすれてますけど、確かに石月製作所って書いてますね。
 Jが言ってた工場ってココっすよ、教官!
 すみませーん!誰かいませんかー!!」
【工場から顔を出したバンダナの青年】
「ハイ?
 ドチラサマですか?」
「あ、こんばんは!
 オレ、JサンからトイCEMドライバーのバイトを紹介されて来たんスけど……」
【ミッキー】
「オー、アナタがJのトモダチですか!Jから話は聞いてます。
 ワタシ、CEM整備士見習いのミッキーといいます。さぁ、中へどうぞ!」



「スゲー!ここがトイCEM作ってる工場かぁ。
 オレ、CEM製造工場の中見るのって初めてなんだ。
 ヨロシクな、ミッキー!」
「当初予定していたドライバーの人、急に来られなくなっちゃいまして……
 今日中に乗り手が見つからなかったらTFCへの出場を諦めていたトコロです。
 暁サン達にお手伝いに来ていただけて、トッテモ助かります!」
「暁……
 一応聞いとくけど、ここのバイト代っていくら出んのよ?」
「へへへー、あったかい白いごはんいくらでもッスよ!
 それと、もし優勝できたら特別ボーナスもくれるって!」
「……アタシ、帰っていい?」
「スミマセン。
 フェスの準備に費用がかかってしまって、十分なバイト代を用意できなくて……
 今はチョット工場の経営の方も上手く行っていなくて」
「そんなの言われなくたって見りゃ分かるけどさぁ〜……。
 トイとはいえCEMドライバーの求人っていえば高収入バイトの筆頭だってのに
 こんな報酬で食いつくのは一文無しの暁くらいなワケだわ……ん?」
>背中に大きなプロペラを搭載した真っ赤なトイCEMが置いてある
「おっ、TCFに参加するのってこのCEM?
 なんで背中に扇風機なんか付けてんの?」
「トイCEMって戦闘用CEMに比べるとこんなにちっこいんだ!
 なんか遊園地にある乗り物みたいでカワイイなぁ〜。どれどれ……」
【老人の怒声】
「勝手に触ンじゃねェ!」
「わー?!
 すす……スミマセーン!」
【車椅子の老人】
「オイ、ミッキー。
 誰だァ、コイツらはよ?」
「オー、マイスター!
 ご紹介します。コチラ、ドライバーのバイトに来てくれた暁サンとはさなサン。
 で、コチラがマイスター……この石月製作所の工場長、石月サンです」
【石月 勲男(いしづき いさお)】
「あァん?
 ドライバーのバイトだァ……?」
「じーちゃんがここの工場長さんスか!
 初めまして!オレ、彗星機士学校一年生の日野出 暁っていいます!
 こっちの女の人はオレの教官っス!」
「言っとくけど、アタシはバイトじゃないからね。
 単なるコイツの付き添い!監視役!」
「ほォ?
 彗星機士学校ねぇ」
「工場長!
 オレ、TCF参加は初めてだけど、優勝目指してがんばります!
 よろし……」
「帰ぇんな」
「へ?!」
「マ……マイスター!」
「ミッキー。おれァ、フェスに出るなんざ一言も言ってねェぞ。
 未来の彗星機士サマがこんな寂れた所まで足運んでくれたのはご苦労なこったが
 とっととお帰り願うんだな」
>車椅子の石月は工場の奥に姿を消した
「待ってください、マイスター!
 ……うう……」
「ちょっとォ、これどーいうコト?」
「うーん、なんか事情がありそうっスね」



【お茶を淹れるミッキー】
「スミマセン、マイスターが失礼なことを……」
「あのジジイの口の悪さなんて気にしてないけどさぁ。
 それより、他の社員はどうしたのよ?

 フェスが近いんだし、最後の追い込みでみんな工場で働いてると思ったんだけど」
「いません。
 石月製作所の社員はワタシ一人です」
「はぁ?」
「えっ?
 じゃあ、あの工場長のじーちゃんとミッキーの二人だけでトイCEM作ってんの?!」
「ハイ。さっきも言ったように経営が苦しくて……
 おまけにマイスターのやり方が厳しすぎて、気付けば残った社員はワタシだけ。
 プログラマーを兼ねていたドライバーも、マイスターとケンカして逃げちゃいました」
「あ、ソレなんか分かるわ。
 あのジジイ、職人気質の気難しそうなじーさんだったもん」
「あのじーちゃん、TCFには参加する気ないような言い方してたけど
 トイCEMはここにあるんだし、乗り手のオレがいるだけじゃダメなの?」
「実は……TCF出場はマイスターにはナイショで
 ワタシが勝手に参加エントリーしたのです」
「え?!」
「グンペーは……
 このマイスターのトイCEM『グンペー』は、石月製作所の最高傑作です。
 
大会に参加すれば絶対に勝てます!」
「そーぉ?このトイCEM、素材も新旧バラバラでツギハギ状態じゃない。
 こんなビンボくさいので他のヤツらに勝てる根拠がどこにあるワケ??」
「確か、去年は大手のCEM企業が素人の大会に出張って優勝かっさらって……」

ガシャーン!

>向こうで何かが壊れる音が聞こえた
「な……なに?!」
【石月の怒声】
「テメェ!なにしやがる!!」
「?!
 じーちゃんの声だ!」
「オー!
 またアイツらが来たようです!
 マイスタァァー!」


NEXT





Copyright (C)Asaki Yumemishi All rights reserved.