■彗星機士学校 ヴァーチャルトレーニングルーム/16:00■

【暁】
「教官、教官!
 今あっちの演習島で裕麻サンがCEMに乗ってますよ!」
【はさな】
「んなこと学校一情報通のはさなちゃんはとっくにご存知だわよッ。
 裕麻は定期トレーニングに来てんだから邪魔すんじゃないわよ!」
「へー、さすが裕麻さん向上心あるなぁ。
 裕麻サンがフレディの個人教官になって1ヶ月になりますけど

 裕麻サン、ちゃんと上手に教えられてるんスかね?」
「それがそーでも無いみたいなのよねー。
 昨日なんてエライ失敗やらかしたみたいで落ち込んでたし……」
【銀】
「フレディの成績が伸び悩んでいるのですか?

 あいつは飲み込みが速い方だと思っていますが……」
「フレディは文句のつけようが無い成績優秀入学候補生よ!
 初めて自分の生徒を持つ裕麻教官のココロの問題っていうかさー。

 あのコって自分責めちゃうタイプだし、おまけに生徒は自分より優秀だしで」
「あ、思い出した!
 査察官の凱サンが、ココの仮免教官がタイプG型SランクCEMの所有者になったって
 言ってたんですけど……
それってって裕麻サンのことッスか?」
「えー!凱サン、そんな情報外部に漏らしたワケぇ?!
 見かけによらず口軽いのねぇ〜……
 ま、美形だからはさなちゃんは許してあげるけど!」
「裕麻さんがSランクCEM所有者……。
 本当なんですか、東教官?」
「それがなんかホントらしくってねー。
 人から預かってるだけって言ってたけど、それもプレッシャーになってるみたいよ」
(SランクのタイプG型CEM……。
 確かフレディが所有するCEMも同タイプだと聞いたが……まさかな……)
「いーなー裕麻サン、SランクCEM持ってる人と知り合いだなんて!」
「ちょっと……
 今、アンタの目の前にいる超美人でナイスバディーなトリプルテイルのお姉サマは
 一体何ランクのCEM持ってると思ってんの?」
「あ。
 そーいえば教官が持ってるCEMもSランクでしたっけ?」
「そーいえばって……
 信じらんなーい!
自分の個人教官が持ってるCEMくらい覚えときなさいよねッ!」
「そんな事言ったって、
 教官は今まで一度も自分のCEMの話してくれたコト無いじゃないッスか〜!
 あと、たまに聞くその『トリプルテイル』っていうの何スか?」
「CEM機動時にテイルを三本噴出させる事が可能な彗星機士、という意味だ。
 単純にダブルテイルで出力二倍、トリプルテイルで出力三倍……。
 隕子反応レベルSのお前もトリプルテイルの可能性がある一人だろう」
「えっ?!
 じゃあ、オレもCEMに乗ったらテイル三本出せるんだ!」
「隕子反応のレベル的には可能性がある、というだけの事だ。
 CEMとの相性が良く、よほど訓練を重ねた灰緑の機兵でもなければ
 ダブルテイルですら自由自在にコントロールできるものではない」
「ま、その時のノリも関係あるしね。
 裕麻も反応レベルはSだけど、あの子まだ一度もトリプルテイル出せてないみたいだし。
 預かってるっていうCEMとは相性バッチリなはずなんだけどねぇ」
「隕子反応レベルSなら誰でも出せるってわけじゃないのかぁ。
 でも、相性バッチリな個人教官が持ってるCEMなら可能性あるって事ッスよね?
 東教官のCEMに乗ればオレもトリプルテイル出せるかも!」
「アタシとアンタの体の相性以上にありえないわね。
 百億万年経ったってアンタにゃ乗りこなせるシロモノじゃないわよ、
 アタシのヴァイロカーナは!」
「V.カーナ?!
 タイプP型SランクCEMの、あのV.カーナですか?
 日本で十機しかないSランクCEMの内の一つでは……」
「ピンポーン♪
 さぁっすがお勉強家の銀クン!
 そーねぇ、銀クンだけになら見せてあげてもいいかなぁ〜……特別に☆」
「教官ー、オレもオレも!!」
「アンタはダメッ!
 アタシと銀クンが迸る若い劣情に身を任せキケンな恋に身を焦がす
 学校では教えてくれない秘密のドキドキ課外授業にガキは要らないの!」  
「やっぱりぃ〜
 銀クンも初めての時は、オネーサンに優しくリードされる方がイイわよね〜。
 銀クンだけにぃ、V.カーナとはさなちゃんの全てを教えてア・ゲ・ル☆」
「いえ、俺はV.カーナのことだけで……」
「銀、もう聞こえてないって……」



【トレーニング中の裕麻】
(……)

「なんでしょう、リチャードさん?
 あたしだけにお話って……」
【リチャード】
「ミス・ツチナリ。
 なぜか坊ちゃまは貴女の事をいたく気に入っておられるご様子ですが
 貴女ご自身は、ご自分がL.C.フィールの所有者になった事をどうお考えですか?」
「?
 あの、それはどういう……」
「失礼ながら率直に申し上げますと、
 色々な側面から鑑みて
坊ちゃまのL.C.フィールを託すには
 現在のあなたには少々荷が重過ぎるかと存じます」
「今日のトラブルの事は本当にすみません!
 あたし、フレディの期待に応える為にも、
 もっと頑張って練習して上手く使えるように……」
「ミス・ツチナリ。
 坊ちゃまにとってL.C.フィールは単なる機械ではない事を何卒ご理解ください」
「それは、あたしも充分理解しているつもりでL.C.フィールを……!」
本国イギリスはこの平和な日本とは違い、今でも過激派組織が暗躍する地域……
 坊ちゃまは人前でこそ気丈に振舞っておられますが、
常に本国のニュースに神経を尖らせ
 旦那様の身に危険が迫ってはいないかと人知れず憂慮しておられます
「祖国を離れ、この地で坊ちゃまの心の支えとなるのは
 旦那様の愛とスターティア家の未来が込められたL.C.フィール唯一つ。
 万一の事があった際、ご自分に責任が取れるのか……今一度、よくお考え下さい」

(……)
【聞き覚えのある通信音声】
『調子は如何かな、椎成教官』
『!
 阿御威!』
【阿御威】
『少々話がある。
 トレーニングが終わったら私の部屋まで来てくれ』



【ドア越しの裕麻の声】
椎成です!失礼します!」
【パソコン画面に目を通す阿御威】
「どうぞ」
「ごめん、遅くなって!
 ……あら?」
>客人用のテーブルに紅茶のティーカップが置いてある
「阿御威、誰かお客さんが来てたの?」
「お前の生徒の所の英国執事がヤボ用でね」
「英国執事って……
 まさか、リチャードさんがここに?!」
「ああ、大事な坊ちゃまのCEMデータを抱えてな。
 お前が預かったCEM、なかなか大層な仕様の機体じゃないか。
 スターティア家が一人息子のため極秘に開発しただけのことはある」
「あの……
 リチャードさんは、何て?」
「L.C.フィールに起きた原因不明のトラブルについての見解と
 タイプG型SランクCEMに適性がある彗星機士の紹介の相談を持ちかけられた。
 どうやら、フレディのCEMをお前が所有している事にご納得頂けていないようだな」
「うん、そうみたい。
 やっぱり他の人から見たら、色々経験不足のあたしが
 L.C.フィールみたいなハイエンドCEMを預かってるなんておかしいよね
「それに、L.C.フィールに乗ってから
 実はまだ一度もトリプルテイルどころかダブルテイルも出せなくて……
 これじゃリチャードさんが不安になるのも無理ないと思う」
「リチャードの言葉に怖気付いたか?
 自分には荷が重いと感じたなら、今からでも所有権移動の手続きを掛け合ってやるぞ」
「確かにあたし、フレディの事情もよく知らないままL.C.フィールを預かっちゃって……
 ここに来る途中でも『スターティア家の御曹司の気まぐれに付き合うのも大変だね』って
 宇和助教官に笑われてきたところ」
「まぁ、お前が安請け合いした感じは否めんな。
 仮免教官になりたてで戦闘地域での功績も持たん者が
 SランクCEMに乗るなど前代未聞だ」
「戦闘地域……。
 ……ねぇ、阿御威。

 イギリスの過激派組織って、やっぱり『サリヴァン・グレイ』のことかな?」
「だろうな。
 奴等のおかげでイギリス国内でのCEMは背徳の代名詞だ。
 リトロポスがヘレティックと呼ばれ疎まれるのも無理は無い」
「サリヴァン・グレイ……
 リトロの犯罪者達で結成されたテロリスト集団。
 組織は壊滅したけど、今でもイギリス国内には元リーダーを信奉する残党が居るのよね」
「裕麻。
 フレディは幼い頃から悪意に満ちた光景を目の当たりにしてきたはずだ。
 戦争という名の人の悪意を」
「戦争……」
その上で彼はお前に何かを感じ、L.C.フィールを託す覚悟を決めたのだろう。
 これが単なる子供の気まぐれかどうかは、お前が自分で判断するといい」


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